第3回 「筋育学」ってどんな意味?   

竹並恵里 博士
東京大学社会連携講座 特任研究員
博士(学術)
管理栄養士
健康運動指導士
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本サイトのタイトルにある「筋育学」は、聞きなれない言葉かもしれません。

筋肉づくりを学ぶなら「筋肉学」でも良いように思いますが、私たち社会連会講座では「筋育学」という言葉に、筋肉への熱い想いを込めています。

ここに込められた想いは2つ。この想いを知っていただくことが、筋育学の第一歩になるはずです。

筋肉が育つ仕組み「超回復」とは?


筋肉を鍛えようと思う時、多くの方が「まずは筋トレ!」と思い浮かべることでしょう。確かに、筋肉に適度な刺激(負荷)を与える筋トレは、筋肉を鍛えるには必須な項目です。

しかし、それだけでは筋肉量を増やすことはできません。その理由は「超回復」という仕組みにあります。「超回復」とは、筋肉が増強されていく過程のイメージです(図1)。

筋トレをした筋肉は一時的に疲労しますが、栄養補給が適切に行われることで回復していきます。

この時、筋肉はただの回復(元の状態に戻る)ではなく、以前よりも少しだけレベルアップした状態に回復するため「超回復」と呼ばれます。これを繰り返していくことで筋肉は増強されていきます。

逆に、適切な栄養摂取をせずに筋トレを続けるとどうなるでしょうか?

筋トレで疲労した筋肉は十分に回復できないため、非常に効率が悪い方法になってしまうだけではなく、このような状態で筋トレを繰り返すことで、以前よりも減弱してしまう可能性すら生じます(図2)。

筋トレを頑張っているのに筋量が思うように増えないという方は、このケースに当てはまるかもしれません。

栄養相談を行っていると、実はこういったお悩みを抱えている方が多く、せっかくの努力に見合った成果が得られず、大変もったいないなあと思います。

筋肉を育もう!


したがって、筋肉づくりは「筋トレ+栄養(食事)」をセットに行うべきであり、さらに、筋肉の回復のために十分な「休養」も必要となります(図3)。

もしかしたら、そこまでするのは面倒だと思う方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、筋肉づくりのプロの多くは「運動(筋トレ)+栄養+休養」の三位一体の形で取り組んでいます。この方法が最も効率が良いと知っているからです。

また彼らのモチベーション維持の秘訣は、ずばり筋肉に「愛情」を持つこと。

つまり「筋肉」を「育む(愛情をもって育てる)」つもりで取り組むことが、筋肉づくりを成功につなげる土台となります。これが「筋育」という言葉に込めた一つ目の想いです。

「筋肉と健康」の講座でもご紹介しましたが、筋肉は皆さんの健康を守るうえで非常に重要な組織です。

しかし、長い年月愛情をかけず放っておいた筋肉は減弱してしまい、それが加齢に伴う様々な健康問題を引き起こすことが多くの研究から分かってきています。

たとえ少々手間がかかっても、愛情を注ぎ育てる価値は十分にあると考えましょう。そして、愛情をかければかけた分だけ必ず答えてくれる、筋肉はそんな可愛い存在でもあるのです。

その筋育は「筋肉」のため?「健康」のため?


さて、筋肉へ愛情をもってとお伝えしましたが、実は愛情のかけ方も重要です。

筋肉づくりの栄養相談の現場では、筋肉に愛情をかけすぎる余り、筋肉を増強することだけに着目し、食事の内容に大きな偏りが生じてしまっているケースを見かけます。

よくある一例は、筋肉の材料であるタンパク質を大量に効率よく摂ろうと、極端に肉に偏った食事になるパターン。

筋肉へのタンパク質補給には良いかもしれませんが、肉にはタンパク質だけではなく、LDL-コレステロール(悪玉コレステロール)を増やしやすい飽和脂肪酸が多いため、このような食事を続けることは動脈硬化のリスクを上げてしまいます。

また肉から摂れる栄養素には限りがあります。どんな食品でもそうですが、一つの食品に偏ることは、本来他の食品から摂れるはずの栄養素が不足しやすくなり、これも様々な健康リスクを招きます。

このように、筋肉のためだけを目的にした筋育の場合、偏った食事が原因でかえって健康を害してしまう可能性もあるのです。

筋育には確かに食事が重要ですが、日々の食事は筋肉のためだけに存在するのではなく、健康のためにまずあることを忘れてはいけません。

筋育を未来の自分の健康を守る有効な手段とするためには、筋肉づくりに「正しく」取り組む必要があるため、私たちは、「筋肉づくりを通して学ぶ、生涯を健康に生きるための教育」として「筋育学」を考えています。

私の回ではこれから、そんな「筋育学」における「筋育栄養学」についてご紹介していきます!