第16回 「筋肉年齢」を測る

石井直方 博士
東京大学名誉教授
東京大学特任研究員
東京大学社会連携講座 講座長
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前回は、「暦年齢」は変えることのできない年齢であり、「生理学的年齢」は努力次第で変えられる年齢であるというところまでお話ししました。

特に、筋肉の量や機能に基づく「筋肉年齢」を測ることができれば、健康長寿のための有用な指標になるでしょう。

現在進行している研究プロジェクトでは、筋肉年齢のひとつとしての「脚筋力年齢」を推定する簡便な方法を開発中ですので、今回はこれについてご紹介しましょう。

「立ち上がり筋力」の加齢変化


本教室の第1回目に、加齢によって衰えやすい筋肉は下肢・体幹(いわゆる足腰)の筋肉であることをお話ししました。これらの筋肉が衰えると、「立ち上がる」、「歩く」といった日常動作に深刻な影響が及びます。

そこで、私の研究室では15年ほど前に、「サーボ制御式脚・股関節伸展ダイナモメータ」という装置を開発して、立ち上がり動作時に地面に対して発揮できる最大筋力(「立ち上がり筋力」)を安全に測定するシステムを作りました。

この装置を用い、18歳から82歳の日本人男女285名を対象として、年齢と体重当たりの立ち上がり筋力の関係を調べました。その結果、筋力は男女いずれの場合にも、加齢とともに概ね直線的に低下し、20歳から80歳までの間に男性で約67%、女性で約60%にまで落ちることがわかりました。

こうして年齢と筋力の関係のグラフができると、現在の自分の年齢での平均値がどれくらいで、自分の筋力がそれより上なのか下なのかを判定できます。

筋力が同じ年齢での平均値を大きく下回っている場合には、すぐに適切な筋力トレーニングを開始することで、寝たきりリスクの早期発見、早期対応につながるわけです。

筋力の加齢変化データをもとに筋力年齢を測る


筋力と年齢の関係を逆に利用すると、現在の自分の「脚筋力年齢」を推定することが可能です。例えば男性の場合、立ち上がり筋力が体重の約3.2倍あれば、44歳の平均値と同等、すなわち脚筋力年齢は44歳ということになります。

以前、東京大学の新入生の一部を対象にこの測定を行ったところ、脚筋力年齢が80歳という学生がいて仰天したことがありました。学生本人も相当ショックを受けたようでしたが、直ちにトレーニングを行う実技を履修させたところ、1年後に何とか44歳にまで「若返る」ことができました。

専用の装置を使わずに筋力年齢を測る


全国の自治体がこのダイナモメータを備えてくれれば、地域の高齢化対策は万全になるかと期待したのですが、装置の制作費(すなわち価格)が1台で1千万円以上かかったため、残念ながら実現には至りませんでした。

そこで、特別な装置を使わずに最大脚筋力を推定する方法として最初に考えたのが、「片脚スクワットテスト」です。このテストでは、高さ40センチの椅子から、片脚で何回連続して座り立ちができるか(最大反復回数=RM)を測ります。

両脚だと何回でもできてしまうので片脚で行います。回数が10回以下の場合、体重負荷と回数の関係から片脚の最大筋力を推定することができます。10回を超えてしまう場合、推定が不正確になってしまうため、適当な重さのダンベルを持って負荷を増量し、10回以下にします。最後に左右を足して両脚での最大筋力(体重比)とします。

この方法は、大学の授業や運動教室などで効果的に利用してきましたが、いろいろな重さのダンベルが必要なことや、片脚でバランスをとる必要があるため、自宅で安全に行うという観点では十分とはいえません。

スロトレを利用して筋力年齢を測る


そこで新たに考えた方法が、「スロトレ」を利用することでした。スローな動作で力を緩めずに行えば、自重のみのスクワットでも何十回とはできないと考えられるからです。

丁度、私の最後の指導院生が、「筋力トレーニングの数学的モデルの構築」に関するテーマで博士論文を書き上げ、学会誌にその一部を公表したところでした(Hatanaka & Ishii, 2021)。このモデルは、負荷強度(最大筋力に対する割合)、動作速度、セット間休息時間・・・などの諸条件を入力すると、1セットでの最大反復回数(RM)、筋線維タイプごとの総活動量などを返してくれます。最終的に、速筋線維の総活動量からトレーニング効果としての筋肥大の程度を予測できます。

このモデルを利用し、「4秒で上げ・4秒で下げ」の速度で行うスロースクワットの負荷強度(最大筋力に対する割合)とRMの関係を導きました。負荷強度は「自重」そのものですので、RMを測定すれば最大筋力(体重比)を推定できます。

一例を挙げると、女性でこのスロースクワットを正確なフォームで15回できた場合、最大筋力は体重の約2.6倍、脚筋力年齢は49歳と推定されます。

現在、この方法の有効性を検証中ですが、近い将来、本サイトでその試行版が体験可能になるのではないかと思います。