
竹並恵里 博士
東京大学社会連携講座 特任研究員
博士(学術)
管理栄養士
健康運動指導士
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第15回の講義で一日に必要なエネルギー量の目安を紹介しました。しかし「量」が適切であっても、何から摂取しているのか、つまり「バランス」が乱れていたら健康的な筋育はできません。
今回は、バランスを整えるための指標の一つ「エネルギー産生栄養素バランス」についてご紹介しましょう。
「エネルギー産生栄養素バランス」とは?
第13回の講義(「栄養素と3つの働き」)で、エネルギー源になるのは5大栄養素のうち、糖質(1gあたり4kcal)、脂質(1gあたり9kcal)、タンパク質(1gあたり4kcal)のみとお話しました。いわゆる3大栄養素と呼ばれるものですが、その性質から、この3つの栄養素は「エネルギー産生栄養素」と分類されます。
「エネルギー産生栄養素バランス」とは、総摂取エネルギー量(カロリー)におけるエネルギー産生栄養素の構成比率を示した指標です。
これまで「PFCバランス」として表してきたものが、『日本人の食事摂取基準(2015年版)』から名称が変更され、目標値が新たに設定されました。(ちなみに、PFCバランスは、タンパク質=Protein・脂質=Fat・炭水化物(糖質)=Carbohydrateそれぞれの頭文字から作られた言葉です。)
摂取エネルギー量が適切であっても、エネルギー産生栄養素のバランスが乱れていたら生活習慣病の発症・重症化につながってしまいます。それを予防する目的で設定された指標が「エネルギー産生栄養素バランス」です。
「エネルギー産生栄養素バランス」の目標量は?
『日本人の食事摂取基準(2020年版)』では、エネルギー産生栄養素バランスの目標量を糖質(炭水化物)50~65、脂質20~30、タンパク質13~20としています(単位は%エネルギー:エネルギー比率、つまりその栄養素からのエネルギー量が総摂取エネルギー量に占める割合を表す)。

(%エネルギー)
ただし、タンパク質の目標量のみ、50~64歳で14~20、65歳以上では15~20となります。これは、『日本人の食事摂取(2020年版)』から、高齢者の低栄養予防やフレイル予防のために、50歳以上が目標とするタンパク質摂取の下限値を他の年齢区分よりも引き上げたためです。
これらの値は絶対ではありませんが、バランスの良い食事を考えたり、今の食事の栄養バランスを大まかに評価したりするための、一つの指標として活用できます。

「エネルギー産生栄養素バランス」の活用方法~その1
一日に糖質・脂質・タンパク質をそれぞれ何g摂取したら良いかを考えたい場合は、エネルギー産生栄養素バランスを活用して以下のように計算できます。
エネルギー産生栄養素バランスから一日の摂取量の目安を算出する方法
(今回は計算しやすいようにそれぞれの目標量の中央値を使用。目的に応じて目標量の範囲内で適切な数値を用いると良い。)
例)一日の必要エネルギー量が2000kcalの場合
●糖質(炭水化物):2000kcal×(57.5÷100)÷4kcal/g≒288g
●脂質:2000kcal×(25÷100)÷9kcal/g≒56g
●タンパク質:2000kcal×(16.5÷100)÷4kcal/g≒83g
このように、一日の必要エネルギー量が分かっていれば(第15回講義)、エネルギー産生栄養素バランスの目標量と各栄養素における1g当たりの産生エネルギー量(糖質:4kcal、脂質:9 kcal、タンパク質4 kcal)から、各栄養素の一日の摂取目安量を算出することが可能となります。(ただし、タンパク質の一日の摂取量は、エネルギー比率だけではなく、体重1kgあたりの必要量で考えることも重要です。今後の講義で詳しくご紹介します。)
今はほとんどの加工食品にエネルギー産生栄養素の含有量が記載されていたり、アプリやインターネット上で手軽に食品中の含有量を調べたりできるため、上記の方法で算出した値を一つの目安として活用してみても良いでしょう。
「エネルギー産生栄養素バランス」の活用方法~その2
食品中のエネルギー産生栄養素の含有量が分かれば、その食品自体のエネルギー産生栄養素バランスを算出することで、バランスの良し悪しを評価することもできます。
エネルギー産生栄養素の含有量からバランスを評価する方法
例)カロリー668kcalで糖質(炭水化物)82.3g、脂質29.7g、タンパク質19.2gが含まれている牛丼の場合
●糖質(炭水化物)のエネルギー比率:
(82.3g×4kcal/g)÷668kcal×100≒49
●脂質のエネルギー比率:(29.7g×9kcal/g)÷668kcal×100≒40
●タンパク質:(19.2g×4kcal/g)÷668kcal×100≒11
上記の牛丼の場合、脂質の割合が高く、タンパク質の割合が低いことが分かります(糖質も低め)。これは含有量だけでは見えてこなかった情報です。
このようにエネルギー産生栄養素のエネルギー比率を算出しバランスを見ることで、「この食品はバランスが悪いから別のものにしよう」または「次の食事でバランスを整えるようにしよう」など、食品選びや改善方法を考える際のヒントとして活用することができます。
エネルギー産生栄養素バランスは、基本的には食事全体で考えるものなので、単品でのバランスが悪くても他の食品との組み合わせで整えることができればOKです。しかし、極端にバランスが悪いものをメインのメニューで選んでしまうと、全体のバランスも乱れやすくなるため気をつけましょう。
ビタミンやミネラルなどの栄養素の評価まではできませんが、エネルギー産生栄養素バランスを考えることで、バランスの良い食事づくりが実現しやすくなります。活用してみください。