第4回 速い筋肉と遅い筋肉:歳をとるとどちらが減るか(後編)

石井直方 博士
東京大学名誉教授
東京大学特任研究員
東京大学社会連携講座 講座長
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速い筋肉と遅い筋肉:歳をとるとどちらが減るか(前編)の続き……

筋トレで太くなるのはどちら?


筋力トレーニング(筋トレ)で太くなるのは主に速筋線維の方です。

遅筋線維が太くならないというわけではありませんが、肥大速度でいうと速筋線維の方が遅筋線維の3倍ほど速いと考えられます。

また、筋トレを止めてしまうと急速に筋肉は細くなりますが、この場合には大きく肥大した分だけ速筋線維の方が速く萎縮します。

筋トレで筋肉を太くするためには、速筋線維を使うことが最低要件といえます。

使わないと萎縮するのはどちら?


一方、ギプス固定や宇宙飛行などによって、日常レベルよりも筋肉を使わなくなったり(不活動)、筋肉に負荷がかからなくなったり(除負荷)した場合、筋肉は萎縮してしまいます。

このような場合には、遅筋線維の方が速筋線維よりも激しく萎縮します。

遅筋線維は日常生活で常に使われるため、「活動すること」が現状維持のための条件となっているためと考えられます。遅筋線維は日常レベルですでに肥大していると言ってもよいかもしれません。

逆に、速筋線維は非常時のために温存されているため、「休んでいること」で現状維持されているといえるでしょう。

歳をとると萎縮するのはどちら?


加齢に伴う筋萎縮(サルコペニア)の場合はどうでしょうか。

大腿四頭筋では、速筋線維と遅筋線維の数の割合は約1:1ですが、40歳を過ぎた頃から速筋線維の割合が次第に減って行きます。

さらに、個々の速筋線維が遅筋線維よりも激しく萎縮して行きます。速筋線維の方が加齢の影響を受けて萎縮しやすい理由や仕組みは不詳で、現在研究中です。

このように、筋肉が加齢に伴って萎縮すると、その速筋的な能力はより著しく低下するといえます。つまり、スピードが遅くなるわけですが、より深刻な問題は「すばやい力発揮によってブレーキをかける能力」が低下し、転倒などの危険性が増すことです。

さらに、速筋線維は糖を主要なエネルギー源としますので、速筋線維が減ると糖代謝機能が低下し、糖尿病へとつながる可能性があります。

このような理由から、高齢になっても速筋線維を維持することは重要と考えられます。