第4回 速い筋肉と遅い筋肉:歳をとるとどちらが減るか(前編)

石井直方 博士
東京大学名誉教授
東京大学特任研究員
東京大学社会連携講座 講座長
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これまで、健康の維持・増進のために筋肉がポイントとなること、筋肉を強化するためのトレーニングとして「スロトレ」をお勧めすることなどをお話ししてきました。

「スロトレのすすめ」の講座では、スロトレの効果の仕組みに関連して、「速筋線維」と「遅筋線維」という2種類の筋線維について簡単に触れましたが、これらについてもう少し詳しくお話ししておきましょう。

速筋線維と遅筋線維の特徴


筋線維は筋肉を構成する細長い細胞のことです。

大きく速筋線維と遅筋線維に分けられますが、速筋線維はさらに3つの「サブタイプ」に分けられます。

最も一般的な分類法では、遅筋線維を「タイプ I」、速筋線維を「タイプ IIa」、「タイプ IIx」、「タイプIIb」と呼びます。スピードの速さではIIb>IIx>IIa>I となり、逆に持久力では I>IIa>IIx>IIb の順になります。

ヒトの筋肉では、タイプIIb はほとんどなく、I、IIa、IIx の3種類がメジャーです。また、太腿の前面の大腿四頭筋では、速筋線維(タイプIIaとIIx)と遅筋線維(タイプI)の数の割合はおよそ1:1です(個人差はあります)。

スピードの違いは主に、「ミオシン」という、収縮力を発揮するタンパク質の性質の違いによります。

一方、持久力の違いは主に、エネルギーを生み出す機構、つまり「代謝系」の違いに依存します。

速筋線維では「解糖系」という代謝系がメインにはたらき、遅筋線維では「酸化系」(または「有酸素系」)という代謝系が発達しています。

解糖系は酸素を必要とせず、すばやくエネルギーを産生できるのですが、エネルギー源である糖質(主にグリコーゲン)の量に限りがあり、さらに中間代謝産物である乳酸が蓄積しやすいため、長持ちしにくいといえます。

一方、酸化系は酸素を利用して長時間にわたり効率的にエネルギーを産生できますが、多段階で複雑な反応経路のためエネルギー供給速度が遅いという特徴をもちます。また、脂質を代謝できるのは酸化系の方です。

酸化系代謝はミトコンドリアという細胞内小器官で行われるため、遅筋線維はミトコンドリアを多くもちます。

さらに、細胞外からミトコンドリアに酸素を運ぶための運搬役として、「ミオグロビン」というタンパク質を多量にもっています。ミオグロビンはヘモグロビンと同様に鉄を含む「ヘムタンパク質」で、赤い色をしています。

そのため遅筋線維は赤味をおびていて、「赤筋線維」とも呼ばれます。一方、速筋線維はミオグロビンが少なく、白〜ピンク色ですので「白筋線維」とも呼ばれます。

続き……速い筋肉と遅い筋肉:歳をとるとどちらが減るか(後編)