第18回 筋育栄養学的!「主食」の取説:糖質は悪者なの?(後編)

竹並恵里 博士
東京大学社会連携講座 特任研究員
博士(学術)
管理栄養士
健康運動指導士
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前編では、一日に必要な糖質摂取は「主食=デンプン」で、とお勧めしました。実は、主食の極端な摂取制限は、死亡率を上げてしまう可能性が報告されています。

一方、飲料や菓子などに含まれる「甘い糖質=糖類」は、健康への様々な悪影響が懸念されるため要注意な糖質です。

糖質摂取量と死亡率の関係


2018年に、糖質(炭水化物)摂取量と総死亡率との関係を評価した研究結果が報告されています。

45~64歳のアメリカ人男女15,000人以上を25年間追跡したこの研究では、総死亡率が最も低くなるのは、総摂取エネルギーに占める炭水化物の割合が50〜55%の集団であることが分かりました。

この集団の総死亡リスクを1とすると、40~50%群では1.11、30~40%群では1.21、30%未満群では1.37と、摂取量が減少するほど死亡リスクは増加しています。一方、55〜65%群では1.01と変化はなく、65%超えた群で1.16と増加が確認されました。

この結果から、炭水化物の摂取量は50~65%の範囲が健康的で、それより多すぎても少なすぎてもリスクが上がるが、少なすぎる方がそのリスクの増加は大きいことが分かります。

主食を抜くとなぜ死亡率が上がるのか?


なぜ、炭水化物の摂取量が減ると死亡率が上がってしまうのでしょうか?この理由として、動物性の脂質・タンパク質の増加食物繊維の減少などが考えられます。

前編で紹介したように、主食は食物繊維の大きな摂取源です。先ほどの研究でも、炭水化物の摂取量が減少するほど、食物繊維の摂取量も少なくなることが報告されています。

また、主食を制限した分、肉の摂取量を増やすというケースはよく見られますが、これは動物性の脂質やタンパク質の摂りすぎにつながります。

炭水化物摂取量が少ない群で死亡率が上がる原因はここにあると考えられ、興味深いことに、主食を制限しても植物性の脂質やタンパク質の摂取量が増えた場合には死亡率はむしろ低下することが報告されています。

やはり、主食を減らす場合は、代わりに「何を増やすか?」、ここをしっかり考えることが重要です。

前編でもご紹介したように、①主食を精製度の低いものに切り替える、②副菜を増やす、に加えて、③植物性のタンパク質食品である大豆をはじめとした豆類やナッツ類の摂取量を増やすことで肉の摂取量が必要以上に増えないように意識しましょう。

目指せ「糖類」制限!


ここまで糖質の必要性や摂り方のポイントをご紹介してきましたが、一方で、糖質の中にはその健康への影響を考えると、できる限り摂取を控えたいタイプのものもあります。それが吸収の速い「糖類」です。

WHO(世界保健機構)の2015年のガイドラインでは、1日の遊離糖類 * (free sugars)の摂取量を総エネルギー摂取量の10%未満に減らすことが強く推奨されています。さらに、5%まで減らすと、より健康効果は増大すると言及しています

*遊離糖類:単糖類および二糖類のことで、食品・飲料に添加する糖類のほか、はちみつ・シロップ・果汁・濃縮果汁中に天然に存在しているものをいう(生鮮果実・野菜及び乳中に存在する糖は対象外)。

例えば1日の摂取エネルギー量が2000kcalの場合、10%未満は50g未満、5%未満は25g未満に相当します。一般的に、ジュースなど市販の甘い飲料には重量の10%前後の糖類が含まれているため、500mlのペットボトル1本を飲むだけで50gを超えてしまう可能性が高くなります。

飲料に含まれている糖質はほぼ糖類のため、栄養成分表示の糖質(または炭水化物)欄を見ることで糖類の含有量が分かります。よく口にする飲料の含有量を一度確認してみてください。その量の多さに驚くはずです。

飲料や菓子などをはじめ、現代人は様々な加工食品から知らないうちに糖類を摂取しやすい環境にあり、これが様々な不調や病気の要因になっている可能性が指摘されています。

特に、飲料は一度に大量に摂取できてしまうため要注意です。血糖値が急激に上がり、肥満や糖尿病、動脈硬化などの原因になりやすいだけではなく、メンタルの不調にもつながることが懸念されます。また食事の質の低下を招きやすいことも問題視されているため、甘い飲料の摂取習慣がある場合は、見直すことを強くお勧めします。

とはいえ、甘味は幸せな気持ちを与えてくれるのもまた事実。心を満たす楽しみとして生涯付き合っていきたいものです。だからこそ、糖質摂取は主食メインで、糖類は時々少量で、のバランスが丁度よいのだと思います。